2023年11月2日のNEJM(ニューイングランド ジャーナル オブ メディシン)にデュルバルマブを手術の前後に投与した臨床試験の結果が報告されました。デュルバルマブは免疫療法の薬剤で、この薬剤を切除可能な非小細胞肺がん (NSCLC) の方に対して、ネオアジュバント療法(手術の前に投与する薬物療法)、アジュバント療法(手術の後に投与する薬物療法)で用いた治療成績の報告です。周術期レジメンでは両方の利点を組み合わせ、長期的な転帰を改善させる可能性があります。
この臨床試験の対象は切除可能なNSCLC患者( AJCCがん病期分類マニュアル第8版によるステージIIからIIIB [N2リンパ節期])の方です。手術前にプラチナベースの 化学療法とデュルバルマブまたはプラセボを3週間ごとに4サイクル静脈内投与する群に無作為に割り当てました。そして、術後にデュルバルマブまたはプラセボを 4 週間ごとに 12 サイクル静脈内投与を行います臨床病期(II または III)およびPD-L1の発現量に(1% 以上または <1%)に従って層別化されました。
合計 802 人の患者が、デュルバルマブ (400 人) またはプラセボ (402 人) の投与を受ける群に無作為に割り当てられました。生存期間はプラセボよりもデュルバルマブの方が有意に長い結果でした。12か月のランドマーク解析では、デュルバルマブ投与を受けた患者の73.4%(95%CI、67.9~78.1)で無イベント生存が観察されたのに対し、プラセボ投与を受けた患者では64.5%(95%CI、58.8~69.6)でした。病理学的完全寛解(手術検体でがん細胞が消えていた)になった方はプラセボよりもデュルバルマブの方が有意に高い結果でした。(最終解析で17.2%対4.3%と13.0パーセントの差、402件のデータを用いた中間解析でP<0.001)。無イベント生存率と病理学的完全寛解は、病期と PD-L1 発現に関係なく観察されました。グレード 3 または 4 の有害事象(いわゆる副作用のこと。詳細には異なります。)は、デュルバルマブ群の患者の 42.4%、プラセボ群の 43.2% で認められました。
切除可能なNSCLC患者において、デュルバルマブを術前化学療法と術後に追加することによって、術前化学療法を単独で行うよりも有意に高い無イベント生存率と病理学的完全奏効が得られ、安全性はデュルバルマブを追加しても変わりませんでした。デュルバルマブによる無イベント生存率と病理学的完全奏効の改善は、PD-L1 発現が 1% 未満の方でも広く確認できましたが、PD-L1 発現が少なくとも 50% ある人の方が効果は大きかったようです。
この試験は、アストラゼネカ(デュルバルマブを開発した会社)の資金が入っている研究結果ですが、ステージ2,3のNSCLCではデュルバルマブを手術の前後に投与したほうが良いという結果です。PD‐L1が出ていなくても差が出ているので、PD-L1の発現に関係なく投与したほうがよいということになるのでしょう。
文責 東郷かみや内科・血液内科・がん内科院長 神谷悦功 愛知郡東郷町春木塩田1812