鉄欠乏性貧血
体内の鉄が不足すると赤血球に含まれるヘモグロビンが作れなくなるため、鉄欠乏性貧血は起こります。鉄欠乏性貧血は貧血の中で最も頻度が高い疾患です。体内には3gから5gの鉄が存在し、その大部分はヘモグロビンとして赤血球の中に含まれています。鉄はリサイクルによって体内に維持されているので、1日に必要な鉄の量は1mg~2mg程度です。「食事によって吸収される鉄の量」と「身体から失われる鉄の量」が釣り合っていれば鉄欠乏の状態になることはありません。鉄欠乏の状態となる原因は、①鉄需要増加、②鉄供給の低下、③鉄喪失の3つです。①鉄の需要が増加するのは思春期や妊娠した時です。②鉄供給の低下となるのは、鉄の摂取不足や鉄がうまく吸収されない時です。③鉄が喪失するのは、月経、消化管出血、婦人科疾患などがあります。
治療は鉄欠乏の原因を除去することと鉄の補充になります。胃十二指腸潰瘍、ポリープ、がん、痔などの消化器疾患の確認や女性では子宮筋腫などの婦人科疾患を調べることが重要です。鉄剤の補充の原則は鉄剤の経口投与を行います。鉄剤の内服では10~20%の方に悪心(むかつき・吐き気)、嘔吐、便秘、下痢などの消化器症状が出現します。症状が強い場合は、鉄剤を変更したり、食事中や睡眠前に内服するなどの工夫をしたり、鉄剤を減量することなどで対応します。しかし、どうしても内服ができない方は注射で対応します。最近は新たな注射剤が登場していますので、鉄剤の内服ができない方はご相談下さい。鉄剤の内服で貧血が正常化しても、貯蔵鉄(フェリチン)が少ない状況ではすぐに鉄欠乏性貧血は再燃してしまいます。ですので、貧血が改善しても貯蔵鉄の蓄えが十分になるまで鉄の補充は必要です。
腎性貧血
腎臓は赤血球をつくることを促すエリスロポエチンを分泌します。腎臓の機能が低下すると腎臓からエリスロポエチンの分泌が減り、赤血球をつくる能力が低下し貧血になります。このようにして発症する貧血を腎性貧血といいます。貧血は徐々に進行するので、身体がその症状に慣れてしまって気がつかないことがあるので注意が必要です。また、貧血の状態では全身が酸素不足に陥っており、これをカバーするために常に心臓に負担がかかっています。腎臓の機能が低下している方は、採血検査でヘモグロビンの値を調べると貧血かどうか分かります。貧血の症状が悪化する前に適切な治療を行うことが大切です。腎性貧血の治療はエリスロポエチンの分泌不足を補う注射薬や体内のエリスロポエチン産生を促す内服薬を用います。治療の途中で鉄が足りなくなることもあるので、そのような時には鉄を補います。(鉄欠乏性貧血を参照)
治療はヘモグロビン値10.0 g/dL未満で開始し、10g/dL~12g/dLの間で維持を目指します。13g/dLを越えないように減量や休薬を考慮しますが、なるべく12g/dLを越えないようにするように勧められています。