プロバイオティクスとは、「宿主の有益な作用をもたらす生きた微生物」を示す言葉です。生物に拮抗的にはたらくアンチバイオティクス(抗生物質)に対し、「生命のためになること」が語源だそうです。
クロストリジウム(C)・ブチリカム(B)・ミヤイリ(M)の特定株を含む細菌製剤であるCBM588が、免疫チェックポイント阻害薬のがん治療効果を高める可能性が報告されています。CBM588はBifidobacterium、Lactobacillusやその他の善玉細菌種を増加させ、腸内細菌叢における細菌構成を変化させます。また、「免疫」において複雑な作用を観察されています。日本における非小細胞肺癌の後方視的研究では、チェックポイント阻害薬による治療時にCBM588を投与した39例では、投与しなかった79例と比較して治療の効果が得られている時間が延長したことが報告されています。
ところでCBM588とは、ミヤBMのことです。ミヤBMはもともと動物の体内に生息している菌で、日本人の宮入博士によって1933年に発見されました。酪酸菌には腸内環境の乱れを改善するはたらきがあるため、ミヤBMは腸の不調を改善させる薬として用いられています。私も下痢をされた患者さんによく処方しています。
転移性腎細胞がんに対する標準的な全身療法の一つにカボザンチニブとニボルマブの治療があります。カボザンチニブは分子標的薬で、ニボルマブは免疫チェックポイント阻害薬です。転移性腎細胞がん患者にカボザンチニブとニボルマブの治療を行った時に、CBM588を追加すると治療効果が改善するのかを検討する第1相試験(NCT05122546)が実施され、Ebrahimi博士(イラン、テヘラン医科大学)がその結果を発表しました。Ebrahimi博士らの施設では転移性腎細胞がん患者29例を対象とした免疫療法であるニボルマブ+イピリムマブの治療にCBM588併用する臨床試験(NCT03829111)を実施し、CBM588の追加することにより、治療の効果が改善することを報告しています。(Nat Med. 2022; 28(4): 704-712)
次回はこの試験の結果を紹介します。
文責 東郷かみや内科・血液内科・がん内科院長 神谷悦功 愛知郡東郷町春木塩田1812